金色羊の♀♂◎

ファンタジーな漫画家 田辺いとしのブログです。

SS.誰も知らない

私の今の相棒は龍だ。

龍といってもトグロを巻けば手のひらに収まるくらいの大きさで、爬虫類にあるまじき羽が生えた龍だ。

まぁ、龍が爬虫類に分類されるものかはよく知らないが。

龍の背には蝶の羽が生えている。
とりどりの光彩を放つステンドグラスを黒いビロードの枠で縁取ったような、強面な東洋の龍の体躯にあるとは到底思えない美しく可憐な羽だ。

「死んだら土に還るだけって人間もいるだろうけど。」
龍が言った。

私は龍に名前を付けない。龍は龍で龍だからだ。

その睫は金色で体を覆う鱗も光が当たるとキラキラ光る。まるで宝石のようだと思う。思うけれども触れたことはないので実際のところは分からない。

触れればたちまち融合してしまう。
彼らはそれくらい軽い存在なのだ。

今までに沢山の相棒がいた。
妖精だったり木霊だったり姿形は様々で子鬼なんかもいたりした。

私は彼らを融合してここまで大きく育ってきたようなものだ。

「世界はあの世とこの世で出来てるわけじゃないのさ。」

龍はどうやら死んだらあの世に”戻る“という人間の発想が気に入らないらしい。

メビウスの輪なんだよ。」
「輪っかが捻れて8の字みたいなやつ?」
「そそ、それが八つだか十六だか三十三だかにゾーン分けされててさ。魂はそれを巡っていくのさ。」

8と33ではかなり違うといつも私は思うけれども、彼らは人の作った数字などに特に思い入れはなく、数字を使った表現はかなり適当だ。

龍が言いたいことはつまり、この世で死んでも生まれる前の世界に戻るわけでなく、次の世界に進むということなのだ。

この世のことしか知らない私に龍の話を否定することは出来ない。
黙って話を聴いてやることにした。

「死ぬって事は何も悪い事じゃない。別の世界が良けりゃさっさと昇天すればいいのさ。」

察しはつくと思うが彼らに人間の道徳は通じない。
そんなことを思った私の心が伝わったのか龍は続ける。

メビウスの輪だからさ、どの世界が上だ下だということはない。どの世界でも好きなところで過ごせばいい。繋がってんだからな。」

ただし、と龍は少し声をひそめる。
「方向はある。」

方向とはなんだ。
メビウスの輪のスゴロク形式であるなら方向はゴールに向かって一方向ではないのか。

「流れだよ。」

察しの悪い私に龍は言った。

「死ねば何でも良いって訳じゃない。お前が懸念する自殺みたいなことは流れに逆らう方向だ。」

死ねばいいと言ったではないか。
ここで但し書きとは龍はやはり曲者だ。

「“昇天”って言ったろ?
自然ななりゆきで死ぬ事さ。自殺は無理やりこじ開ける行為で流れとは逆に進むことになる。
まぁ、上下はないんだから逆流だって悪くはないんだけどな。ただ…」
「ただ?」
「考えりゃ分かるだろ?遡上する鮭は楽そうか?」

私が鮭なら御免被りたい。背筋が先に死ぬと思う。

「方向に沿って文字通り昇天すれば楽に次の世界に行ける。でも逆方向に進もうとすれば負荷がかかる。ストレスがかかる。お前たち人間は楽が好きだろう?」

どうだこれで分かったろといわん得意げな様子で龍はすいっと空に舞った。

ううむ。
では、この世界がBだとすると流れの先のCという世界、それとは逆サイドにあるAという世界があってB世界にいる私たちは死んでどちらかに進むことになるわけだ。

そして、流れに沿う方向と逆流方向があるってことは、今のB世界にはAとCからそれぞれ生まれてきた者たちが生きている。

だったらばこの世界で方向を変えて次の世界に向かう魂にかぎっては
「元の世界に戻る」
といっても良いではないか。

そんな屁理屈をこねていると頭の上方に龍が降りてきた。

「ホント曲者だなお前は。」
愉快そうに笑った。

だから今私と龍は相棒なのだろうな。

「俺はお前が好きだよ。
きっといつか俺もお前と融合するだろう。」

ついうっかり触れてしまわないとは言い切れない。
今までの相棒たちもそんな感じで融合してきてしまった私だ。
それに対して深刻さはない。
龍にしてもそれは同じように思う。

私は融合する側だから落ち着いていられるが、もし私が取り込まれる側だとしたら彼らのようにはいられない。

「流れに沿うことと逆らうことの本当の大きな違いは、溶け込むか消滅するかってことなんだ。」

いつもとは違う真面目な、しかし深刻さはない穏やかな雰囲気で龍は語る。

「抵抗力がかかれば本人も気付かない間に魂は少しずつ削れて小さくなり、いつかは意識のない塵芥になる。
昇天を続けると魂は拡大していく。でも密度は濃くないから、世界と同化して溶け込んでいくんだ。溶けて世界と重なってもちゃんと意識はある。」


彼らは世界をよく知っている。全てではないが色んなことを知っていて私に教えてくれる。

なぜ人間だけが知らないのだろうか。
自称”この世で一番頭の良い生き物“なのに。

自称は自称でしかないということか。



龍が再び青い空を高く舞っている。
風に撫でられ気持ちが良さそうだ。

こんな心地の良い天気の日は
ほんの少しだけ
世界に融合されてもいいかと感じる。




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